それぞれの






一番欲しかった言葉は、一番言えなかった言葉。





あなたとの出会いを神に感謝しなかった日はない。
あなたとの別れに神を憎まなかった日も。

初めて自分以外に、家族以外に本当に大切だと思える人ができて
嬉しくて楽しくて幸せで、でも怖かった。
失うことが怖いと思ったら最後、それきり一歩も進めなくなってしまった。
進むどころかむしろ後退して、いつしかあなたの笑顔と真正面から向き合うことが辛かった。
もう少しあたしに勇気があれば、あのときなにかが少しずつ違えば
今もあたしの隣にあなたは居てくれたのだろうか。
それとも失うことの怖さなんてものを知らない子供でいられたら
今こんなにあなたを求めることもなかったのだろうか。

あなたが差し伸べてくれたその手をしっかりと掴んだ自分は確かに存在していたのに。
どちらからともなく離された手の中に残るのは、虚しさだけ。
いくら足掻いてもその事実は変わらなかった。
足掻いてもがいたその先に行くのに一体何が足りなかったのか
考えても無駄だと判っていても考えずにはいられない。
それはあなたと離れてからたくさんの時間が通り過ぎた今も変わらない。
今も変わらず考えてしまう。
変わらずに、答えは出ない。
どれほど求めてもその片鱗すらあたしの眼前には決して現れてはくれなかった。

あの頃の濃密な時間たちは今振り返ってみるからこそ、濃密と言えた。
大切な、大切な宝物のような時間たち。
そこに身を置いているときには気づけない哀しい時間たちだった。
ずっとあの時間が続いて、永遠だなんてそんなもの
言葉でしか知らないけど、でも永遠なのだと思っていた。
永遠にあなたがいつでも隣にいるのだと馬鹿みたいに信じていた。
信じる、とは少し違うのかもしれない。
当たり前のようにそういうものなんだと思っていた。
朝がきて太陽が昇り、一日の終わりに月が浮かぶことと等しく当たり前のように
あたしの隣にはあなたがいる、と。

そんな時間が永遠に続かないことを自覚したのと
実際に終わりが訪れたのとどちらが先だっただろう。
どちらにしても何かが変わるわけではないけれど。
何かが始まるわけでも。
ただそこには終わりがあるだけ。
終わりが、あっただけだった。
あたしの隣にぽっかりとスペースができて
それと同じだけあたしの心にも二度と埋まらない空虚さができた。
寂しさと心細さと辛うじて耐えられるほどの痛み。
乗り越えられるほど、完治できるほど軽くはなく、かといって何もかも放り出して泣きわめいて
おかしくなってぐちゃぐちゃになるほど重くはない痛み。
厄介な痛み。

いっそのこと狂ってしまえていたらどんなにか楽だったろう。
あの日を境にあたしの心とうまく折り合いをつけながら共存してきたこの痛みが
いつしか愛しくなっていた。
あたしの一部となって共に出口のない闇をさまよう痛み。
あたしたちは運命共同体。
失ってしまった二度と取り戻せないものを今もどこかで追い求めている。
あの時間たちを懐かしみ、無理は承知で欲している。
いないと知りつつ横を向くときにいつもほんのわずかな期待を胸に
ぽかりと空いたスペースに力ない笑顔を落とす。
誰がいたってそれはいないのと同然。
あなたじゃなければ、意味なんてない。
あたしの存在はあなたといることで成り立っていたのだから。

あなたがあたしに見せる笑顔が変わってしまったと思うのは
あたしの被害妄想なのかもしれないけど、変わらぬ笑顔を見せてくれるほど
あなたにダメージがないとわかるほうが、たぶん苦しい。
自分勝手な言い分だとわかってはいるけどあたしと同じくらい傷ついていてほしい。
あたしと同じくらい寂しさと切なさを感じていてほしい。
そしてあたし以上にあたしを哀れんでほしい。
あたしのことを可哀想だと思ってほしい。
どんな理由でもいいからあたしを気にしていてほしい。

いつのまにか日常になってしまったあなたとの距離をあなたもあたしも
あたしが抱える痛みさえも、当然のことのように受け止めている。
あたしたちが向かうはずだった未来を夢見ていた時期はどこかに置き忘れられ
思い出されることもなく今日もあたしは歌ったり踊ったりしている。
楽しいときに笑い、悲しいときに泣く。
そんな素直な感情表現があたしはできているのかな。
あなたのいない世界で、あたしはひとりぼっちでちゃんとやっているのかな。
そしてあなたは、あたしのいない世界でなにを思い
なにを感じなにを考えて生きているの?
あなたもあたしと同じように胸を痛めるときはあるの?





あの頃に戻りたい。










<了>


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