基本形 1st






あたしの気持ちを知っててついてきたってことは、つまりそういうことなんだよね?ごっちん。



「バッカじゃないの。なにそれ。一緒に温泉入って同じ部屋に泊まるからって
 即エッチOKてなるわけないじゃん」
「そ、そんな〜」
「そういう短絡思考があたしは大ッキライ。下心ミエミエなのも最っ低−」
「そこまで言うかな…」
「温泉と豪華料理で釣ればやらせてくれるとでも思ったわけ?あたしを見くびらないでよ」
「ち、違うよ〜」

ヒートアップした彼女は止まらない。
いつもの如くあたしに罵詈雑言を浴びせかけさっさと寝てしまうんだろう。
そんな彼女に押されていつも負けてしまうけど
今日はそんなことにならないようにあたしもちゃんと言いたいこと言わなきゃ。

「大体よしこは…」
「ストーップ!ストップストップ!ごっちんそのかわいい口ちょっとの間閉じててね。
 たまにはあたしに言いたいこと言わせてくれるかな。そんな顔しないで。
 あたしはごっちんのことが好きだよ。大好きだよ。愛しちゃってます。ってこれ何度も言ってるよね?
 そのたびにごっちんはあたしにはその気がないなんて言って怒ってわめいて帰っちゃうけど、
 こうやって温泉に誘うと来てくれるのはなんでかな?温泉だけじゃないよね?
 今までいろんなとこに誘って二人でデートしたわけだけど、デートだよ。
 デートじゃないなんて言わせないよ。あたしにとってはデートなんだから。
 ごっちん文句言いながらもあたしについてきてくれるじゃん。
 怒りながら約束の時間にちゃんと待ち合わせ場所に来てくれるじゃん。
 これって期待しちゃうよ?普通。
 あたしのこと好きなのかなって、期待しても不思議じゃないと思うんだけど。
 それでもあたしとは友達としてしか考えられないなんて言うならきっぱり縁切ってよ。
 残酷すぎるよ。このままじゃ、あたしもう心が持たないんだ。
 ごっちんを好きな気持ち、どうしたらいいのかな」

これはカケだ。最後のカケ。
あたしは彼女があたしを好きだと信じている。
勝ち目のない勝負はしない。
彼女のあたしを見る瞳。あれは絶対求めてる瞳だ。
だからあたしはカケにでた。このカケに勝ってあたしは彼女をこの腕に…

「縁は切らないしよしことも恋人にならない」
「はぇ?」
「あたしはあたしの思うままに行動する。それのなにが悪いの。
 あたしのこと好きならそれくらい我慢してついこいっつーの。
 これくらいで根をあげるようじゃ所詮その程度の想いだったってことでしょ。
 なにが好きだよ。笑わせるなっつの」
「…あたしは見返りのない愛を求めるほど人間できてないよ」

どうやらカケには負けたらしい。
あたしはしょんぼりして、かっこ悪い捨て台詞を残し部屋を出ようとした。
好きだけど、この我侭自己チュー発言にはもうついていけない。好きだけど。
最後に彼女のかわいい顔を拝んで、ついでに色っぽい浴衣姿を目に焼きつけておこうと振り向いた。

「なんで泣いてるの?!」
「よしこはあたしのこと好きじゃなかったんだよ」
「なにそれ。好きだって言ってんじゃん。何度も何度も」
「だってもうあたしから離れてくんでしょ?グスッ」
「それはごっちんがあたしを拒否ったから」
「あたしには付き合いきれないんでしょ?だったらもういいよ!早く行けばいいじゃん。
 よしこの顔なんてもう見たくないもんっ」

ごっちんやっぱりあたしのこと好きなんじゃん。
ってか子供?この自分勝手さといい脈絡のない言動といいまるで子供だ。
感情で生きている子供には理屈なんて通じない。辛抱強く接しなきゃいけない。
あたしは年の離れた弟たちでイヤってほど実感している。

「ごっちん好きだよ。だれよりも。ずっと好きだ」
「グスッう、うそばっかり」
「ホントだよ。好きだからそばにいるよ。いさせてくれるかな?さっきはヒドイこと言ってごめん」
「エーン。そんなこと思ってないくせにぃ」
「ごっちんがあたしのこと好きじゃなくてもあたしは好きだよ」
「あ、あた、あたしはよしこのこと好きだもん。好きじゃない、なんて言ってないっ。グスン」
「ありがと。あたしも大好きだからね。だからここにいるよ。ごっちんの隣にずっといていいかな?」
「い、いいよ。よしこはあたしのそばにいなきゃいけないんだもん」

なんて、なんて可愛いんだ。
あたしはやっぱり彼女にメロメロで、子供でも我侭でも惚れた弱みには敵わない。
抱きしめようとする手をつねられてもキスしようとする顔を殴られても、あたしは彼女が好きだ。

まだまだ先に進むには時間がかかりそうだけど、とりあえず一歩前進。
彼女があたしを好きだと言ってくれた!
それだけであたしはこんなに舞い上がってる。
幸せってこういうことなんだって実感している。

彼女がいるだけであたしは幸せなんだ。
こんな基本形を見失っていたなんて。
カケなんて必要ない。あたしは彼女が好き。
それで十分。イッツオーライさ!



………だけどたまにはキスさせてよね?ごっちん。

…………いえ、手を握らせてくれるだけで満足です。

……………あ、ごめんなさい。調子こきました。グスン。










<了>


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