背伸び傘






よっすぃ〜が泣いているように見えたから、オイラは自然に後を追った。
一人になりたいのかもしれないと感じていたけど追わずにはいられなかったから。

ごめんな、よっすぃ〜。

「風邪ひく」

差し出した傘が冷たい雨を一応は遮ってくれる。
それでも濡れてしまう肩や前髪に、精一杯背伸びして傘をさす。
足がつりそうになっても、よっすぃ〜の頭上に傘をさす。
なにかを拒むように、または受け入れるように雨にうたれるよっすぃ〜が
なにかに攫われないように傘をさす。

「ごめんな」

四月の雨は物音ひとつせず静かに降りそそぐ。あたり一面を包み込むように。
このまますべてを洗い流して、なにもかもを浄化するつもりなのか。
実際のところ雨が降る意味なんてオイラは知らないけど
少なくともよっすぃ〜がひとりで雨にうたれるようなことがなくなればそれでいい。
それだけでいい。

ぴくりともしなかった背中が動き出し、遠ざかる。
雨の中に一歩を踏み出してオイラから離れていく。
コンクリに跳ねる水音はよっすぃ〜の抵抗。
すべてを拒み、立ち入ることを許してくれない。
でもオイラは中に入りたいわけじゃないんだよ。そんなんじゃないんだよ。

金髪に流れる雫が耳を伝い、肩に落ちる。
そうしてできた染みで濃い色に変化したシャツは頼りなげに泣いている。
よっすぃ〜のかわりに泣いているように見えて、たまらず傘をさす。
それでもとっくに濡れてしまったそのシャツは
もう二度と戻れない日々を思い起こさせてオイラを困らせる。
でも感傷的になりたいわけでもないんだよ。

「よっすぃ〜」

落ちてくる雨粒に目を細めて空を見上げるよっすぃ〜。
邪険にされた傘はあっけなく転がる。オイラの手から離れてころころと。
水を切り、風に舞い、不恰好にひっくり返って。
よっすぃ〜の背中にそっと手を置くと
一瞬ピクリと反応してから諦めたようになすがままになる。
伝わる温もりはあっという間に雨に奪われ霧散する。

「風邪ひくって」
「矢口さんこそ」

傘を拾ってまた差し伸べた。
なんの変哲もない傘を隠れ蓑にして、オイラはよっすぃ〜に手を差し伸べる。
ただ、傘をさしたかった。
よっすぃ〜が雨に濡れることを欲していてもオイラは傘をさしたい。
雨にうたれることが願いでも傘をさして、守りたい。
うちつける雨粒や、体温を奪う冷気から守ることがオイラの役目。

それでもよっすぃ〜はよっすぃ〜のスタンスで
オイラのことなんてまるで構わず雨の中に飛び込んでいく。
両手を広げ、空を仰ぎ、雨にうたれる。
息が詰まるようなその佇まいは綺麗だけど
でもオイラにはやっぱりこうすることしかできないから、ただ傘を差し伸べる。
そしてよっすぃ〜は雨にうたれる。その繰り返し。

ごめんな、よっすぃ〜。

ただ守りたかっただけなんだよ。










<了>


pam boxへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送