ロンドン編 10






マリアの言葉どおり一週間以上安静に過ごしていたあたしは
体調が完璧に回復し晴れて自由の身となった。
入院生活がどれほど退屈だったかは語る気にもなれない。
久々に戻ったホテルの部屋はまるで我が家のように懐かしかった。
支配人のオッサンからのメッセージカードには回復を祝う言葉が並べられていた。

飯田先生やまいちんには電話で無事に退院したことを伝えた。
迎えに行くつもりだったというまいちんには少しばかり怒られてしまった。
飯田先生はいつものようにそっけなく「よかったですね」とだけ言っていた。
あたしもとくに言うことはなかったから
「その節はどうも」と同じようにそっけなく返しておいた。
公園墓地でのことにはお互い触れなかった。

パソコンを開くのも随分と久しぶりだった。
考えてみたら飯田先生とまいちんと3人で飲んだ夜以来、ホテルに帰っていなかった。
あの甘ったるい新婚夫婦みたいな部屋で一晩を明かし
その足でいろいろなところに行った挙句、入院までしてしまった。
自分の無茶さ加減にはマリアじゃなくとも呆れる。

美貴からのメールはなかった。
あの最後のメールからもう2週間以上が経っていた。
その間あたしはなにも連絡を入れていないし、向こうからも来なかった。
嫌な予感がムクムクと沸いて出る。
まさかとは思うけど愛想を尽かされてしまったのだろうか。
ちょっとどころじゃなくブルーになって受信トレイをしばらく無言で眺めていた。


とりあえず帰ろう。
日本に。
美貴のもとに。


そう決めてからは慌しかった。
飛行機のチケットを予約し、マリアや飯田先生に帰国することを連絡した。
退院したばかりなのにとやっぱりまいちんにはこっぴどく怒られてしまった。
その怒りの裏にはもっと飲みに行きたかったという意味が含まれていたと思う。

マリアには美貴を紹介する約束をさせられたけど
もしかしたらもしかするとあたしは振られたかもしれないと、ポロッと弱音を口にしたら
また振り向いてもらえるように頑張ればいいと言われた。
なるほど、まったくその通りだ。

飯田先生はあたしが帰国する日時を伝えるとなぜか少し動揺していた。
でもすぐにいつものそっけない彼女に戻って
空港まで送りますなんてありがたいことを言ってくれた。
そういえば来たときもこの人に迎えてもらったんだよなぁ。
あの日のことを思い出して少し笑った。
飯田先生とまさかこんなに仲良く…じゃなかった、微妙に仲良くなるなんて。
ホント、人生なにがどう転ぶかわからないものだ。



帰国する前日、再び公園墓地を訪れた。
今度はひとりでちゃんと地面を踏みしめて歩いた。
なつみの好きな花なんて知らなかったから
とりあえず適当に白っぽいものを中心に見繕ってもらった。
白はなつみが好きだった色のような気がして。

とても墓に供えるためだけのものとは思えないその豪華な花束を抱えてあたしは歩いた。
どこに持っていくにしても女優に渡す花束は
豪華なほうがいいだろうと勝手なことを思いながら。

「やっぱりなつみには太陽の下は似合わないよね」

苦笑まじりにあたしはその木陰の下の墓前で呟いた。
来る前に買った煙草に火を点けてひと息吸った。
冗談みたいに豪華な花束の脇に添えてから、くるりと背を向けた。
そのまま軽く手を振って、もと来た道を歩いた。
晴れていてとても気持ちがいい日だった。


ホテルに帰ってからすぐ、美貴にメールをした。
あたしの想いは届くだろうか。





「3時のフライトには間に合いますよ」
「いや、だから3時じゃなくて2時だっつの」
「2時でしたか」
「そうそう。何度も言ったよね?だからもうそろそろ出ないとマズイかなって思うんだけど」

送るという申し出を今さら断るのは悪いような気がしたから
飯田先生が少し遅れると電話をしてきても
あたしはなるべく柔らかい言葉で急ぐように促した。
やっぱり飯田先生にはいろいろとお世話になったことだし
ちょっとやそっとの遅れでキレるのは大人としてもどうかと思うわけで。

「大丈夫ですよ。今から行きますから」
「軽っ」
「吉澤さんは部屋で待っていてください」
「はいはい」

この人がこういう口調をするときは有無を言わずそうしろということだと
この英国滞在中にいやってほどわかった。

丁寧な口調のくせに自分勝手というかマイペースというか。
物腰は柔らかいけれど強引なこの人にはなにかと世話になった。
まいちんのことよろしくと別れ際にでも言っておくか。
どうせ「言われなくともわかっています」とか
「今さらそんなこと言うなんて吉澤さん馬鹿ですか」とかが
返ってくるのは目に見えてるけど。

あたしは一刻も早く日本に帰りたかった。
とにかく美貴に会って謝りたい。
とりあえず謝って、あたしを見捨てないでほしいと懇願して
みっともなくても泣きついて謝ろう。
ずっと放っておいてごめん、心配かけてごめん、と。
美貴に振られるなんて考えたくもないけど、事実そんな予感がひしひしと…
メールの届かないパソコンから伝わってくる。

まいったなぁ。
いや、まいったどころじゃない。
ちょっと考えただけで胸が痛くなる。
涙が出る。

とにかく、早く美貴に会いたい。

部屋のチャイムが鳴り、ようやく到着した飯田先生を出迎えた。
長い髪をさらさらとなびかせて颯爽とドアの前に立っているこの人を見ていたら
うじうじ悩んでいる自分がひどくカッコ悪く思えた。
くそっ。なんでこの人はいつもこんなに自信ありげなんだ。

「おっせーよ」

ぶっきらぼうに言い放ってからあたしはコートを着ようと後ろを向いた。





「遅くて悪かったなー」





懐かしいその声に、一瞬体が固まった。
スローモーションのようにゆっくりと振り向くと、そこにいたはずの飯田先生はいなくて。


「来ちゃった」


かわりに、ずっと心で描いていた美貴の笑顔がそこにあった。


「よっちゃんに会いたくて、来ちゃったよ」


笑う美貴の顔が涙で滲んで歪んだ。
ちゃんと見たいのに、あたしの涙が邪魔をする。


「あたしのこと忘れちゃった?なんか言ってよ、よっちゃん」


言葉が出ない。
涙が伝う頬が熱くて。
美貴の声が震えていて。


あたしはゆっくりと両手を広げた。



「美貴っ」



飛び込んできた美貴をしっかりと受け止めた。
こんなに涙でビチョビチョな顔で、足とかもフラフラしてるへタレなあたしだったけど
美貴を抱きしめる腕だけは解かなかった。
どこからか湧いてきた力で精一杯に抱きしめた。

美貴の匂いだ。
美貴の感触だ。

「美貴、美貴、美貴、美貴、美貴、美貴だ、美貴がいるんだ」
「うん。うん、よっちゃん。あたしだよ。あたしはここにいるよ?」
「美貴に、ずっと会いたくて…ずっと、ずっと…」
「あたしも、だよ。よっちゃんがいなくて…どうにかなりそうで」
「ごめんね。美貴ごめん。あたしバカでごめん」
「バカなよっちゃんが好きなんだってば…」

美貴が好きで、美貴が愛しくて、我慢できずにあたしはそっとキスをした。
震えていたかもしれないそのキスは、今までで一番照れくさくて気持ちよくて。
あたしは美貴がいなきゃ一歩も立っていられないんだとこのとき強く思った。

そして、美貴もあたしと同じようにしっかりと抱きついてきてくれて
よりあたしを求めてくれて。

「ん…あぁ…よっちゃん」

どちらからともなく舌を絡め、あたしたちはお互いを欲した。





急ぐでもなく急かすでもなく服を脱いで、脱がした。
美貴のコートやスカートやセーターをそのへんにポンポン放り投げる間さえも
体を離したくなくて唇を舐め合った。

乱暴にならないようにベッドに押し倒して舌を貪る。
これでもかというほど唾液を垂れ流してもキスを止めない。
このまま一生こうしていてもいいくらいに気持ちがいい美貴とのキス。
勢い余って唇が切れても、その傷さえ愛しい。
無機質な鉄の味に生の鼓動を感じた。

あたしの首に両手をまわしておねだりするように求める美貴。
あぁ、なんて可愛いんだ。
美貴がこんなにもあたしを求めてくれている。
それだけであたしは絶頂に達しそうな勢いで
美貴の舌を吸って喉の奥まで吸い取ろうかというほど深く深く口づける。

甘い甘い美貴とのキス。
もうたまらない。
美貴が愛しい。
美貴が恋しい。
美貴が欲しい。

「あぁんっ。や、やめないでっ…」

唇を離すと名残惜しそうな声をあげる美貴。
そして軽く睨むその瞳に、あたしはまた釘付けになる。
美貴のこの顔が好き。
あたしを求めて切ない声をあげる美貴。
首筋に舌を這わせると途端に色っぽい声に変わる。

美貴の体のすみずみまで、あたしは知っているよ。
美貴がどうしてほしいかなんて手に取るようにわかってる。
でもね、今日は自分を抑えられそうにないよ。
あたしの好きにしていいかな?
美貴の体をあたしで満たしていいかな?
あたしの心にはもう美貴しかいないんだ。
美貴以外に入る余地がないよ。
あたし自身さえも。

「ごめ…あたしの好きにさせて」
「はぁっ…あぁん……うん、よっちゃんの、好きにして…」

剥ぎ取ったブラの下から現れた形のいい胸に吸いつく。
両手で揉んで柔らかさを堪能する。
すでにピンと固く尖ったそこを抓むと美貴の喘ぐ声。
耳に心地よくて何度も何度も吸いついた。
舐めても舐めても足りるなんてことはない。
甘くて美味しい美貴の胸にあたしは乳飲み子のように口をつける。
美貴が痛いかもしれないと思っても加減なんてできなかった。
揉みしだく手は一瞬たりとも止まらず、乳首が真っ赤になっても抓み、
舐めて、噛んで、また吸いついた。

あたしの頭をかき抱いて美貴はそれでも答えてくれる。
痛くないわけがないのに。
もっとしてほしいと懇願してあたしの髪にその細い指を絡めては、
苦痛と嬌声の入り混じった声をあげている。

こんなに我を忘れて無我夢中でなにもかもをあたしに委ねている美貴は初めてだった。
あたしのいつもよりも乱暴で身勝手な愛撫をこんなにも受け入れて、乱れてくれる美貴。
愛しさと興奮が混在した性欲の高まりは留まらない。

「いやっ、いやぁぁぁぁぁーっ」

ちゅぱっちゅぱっ

ピクピクと真っ直ぐに上を向いたままの乳首から音を立ててようやく口を離す。
軽くイッたらしい美貴は少し放心していたけれど
あたしは手や口の動きを緩めることなんてできない。
美貴の髪を撫でて唇に軽くキスをしてから
すっかりグチョグチョに濡れきった美貴のショーツに手をかけた。
体を休めるヒマなんて与えない。
心を落ち着かせる時間も惜しいほどに美貴が欲しくてたまらなかった。

「愛してる……」

濡れそぼったそこに始めはそっと唇をつけた。
途端に甲高い声をあげて、跳ねる体を必死にこらえようとする美貴。
可愛くて愛しくて唇をつけた先から舐めあげる。
舌でそこらじゅうを舐めまわして、跳ねのけようとする腰をガッチリと両手で固定した。

すっかり無くなるほどじゅるじゅるじゅるじゅると吸い上げても
美貴のそこは後から後から溢れてくる。
あたしの喉は渇くということを知らない。
唇を噛み締めて必死で快感に耐えていた美貴はついに堪えきれずに盛大な叫び声をあげた。

「いや、いやぁぁん…あぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

美貴がイッてもあたしの舌は止まらない。
舌先でピンクの突起をくりくりと舐めまわしたり
じわじわと締めつけるそこに舌を抜き差しする。

美貴は止むことのない快楽に頭を振り、体をくねらせ抵抗するように
そして受け入れるようにあたしに身を委ねたまま。
そんな美貴の顔を間近で見たくてあたしは体を起こしてのしかかった。
両足の間に体を割り込ませて同じタイミングで指を入れる。

「はぁんっ…よっちゃあぁん…いやあぁぁ…」

何本入ったのかわからないくらいあたしの指と美貴は同化していた。
一体となって体を揺さぶる。

美貴の顔が見たかった。
ううん、ホントは違う。
美貴にあたしを見てもらいたかった。
あたしだけを見つめて囁いてほしい。
あたしと同じように感じてほしい。

「美貴、目あけて…」
「あぁんっ…うん、よっちゃ…」
「美貴、あたしを…」

見つめあった瞬間、なぜだか美貴と初めて会ったときの情景が頭に浮かんだ。
あのとき誰が予想できただろう。
誰が気づくことができた?
なつみよりも、自分自身よりも大切で愛しくてかけがえのない人に、出会えたなんてこと。
あたし自身でさえすぐには気づくことができなかったその感情に。
どうして人は人をこれほど求めることができるのだろう。
こんなにも愛しく思える人にまた出会えるなんて。

指の動きをいっそう速めて美貴の瞳をじっと覗き込んだ。
あたしの首にしがみついて喘ぐ美貴。
快楽に身を任せて、それでもあたしの瞳を見続けている。
涙が溜まったその瞳に映るのはあたし。
他の誰でもないあたし。
美貴の中にいる自分。
あたしの中にいる美貴。

二人がひとつになった瞬間だった。

「あぁっ…あんっもう…あぁぁ…」
「美貴……」
「やぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!」

ひとつに溶け合ったあたしたちはそのままお互いをきつく抱きしめていた。
意識を失ったらしい美貴はそれでもあたしの体をしっかりと抱きしめて離さない。
そんな美貴がやっぱり可愛くて額にそっとキスをした。
何度も何度もキスをした。
いくらしたって満足できない。
ずっとずっとキスをしていた。
そしていつしか抱きしめ合ったままあたしも意識を失った。





「うわぁ…」
「ん?」
「すごい、なんか、恥ずかしいかも…」
「なんでさー」
「だってあんなに…なる、なんて…」
「すっげ可愛かったよ」
「バカ」

いつのまにか目を覚ましていた。
見ると美貴があたしの髪をそっと撫でていてくれた。
「可愛い」を連呼するあたしを軽く叩いてから
照れくさいのかシーツを頭からかぶってしまった。
可愛いから可愛いって言ってるのになぁ。
さっきみたいなエッチはそうそう何度もできるもんじゃない。
せっかくだからいっぱい言わせてよ。

「美貴がすっげ可愛くてあたしも何度もイッちゃったよ?」
「そーいうことを真顔で言うかなぁ」
「だってマジであのときの美貴はすっげ…」
「あー!もうっ。わかったから!恥ずかしいからそんなに言わないでよ…」

うわっ。やべぇ。
なんだこの可愛さは。

初めてエッチしたときよりも、初めてキスしたときよりももしかして恥ずかしいの?
これ以上あたしの心臓を打ち抜かないでくれよー。
美貴はどれだけあたしを虜にすれば気が済むんだ?

「なに言ってんの」
「え〜だってさぁ」
「あたしのが、絶対よっちゃんに…夢中なんだからね!」

美貴とのキスはどうしてこうも気持ちがいいんだろう。
甘い言葉のせいだけじゃない。
唇を寄せるタイミングや指を絡める時間までもがすっかり自然になっていて。
この心地よさに溺れてますます美貴から離れられない。
離れたくなんてない。
絶対に。

「美貴にいっぱい紹介したい人がいるんだ」

マリアに頑張った甲斐があったと報告したい。
まいちんにオイラを射止めた相当マジで本気やっべーくらいすごい彼女だと驚かせたい。
ジョーイにあたしの恋人は宇宙一美人だろと自慢したい。


そしてなつみにも。


あなたのおかげで美貴に出会えたよ、と。

いろんな人、いろんなことに感謝したい。
ツライときにあたしを支えてくれた人。
応援してときに叱ってくれた人。
心配ばかりかけて、それでも見捨てないでくれた人。
さりげない優しさで助けてくれた人。
皆にあたしは感謝する。
今日という日まで生きてこられたことを、心から幸福に思う。
そして隣でニッコリと笑う愛しい人に誓う。






――――あなたを一生愛します。






「よっちゃん」
「うん?」
「あのね…」

耳もとで嬉しそうに囁いた美貴の言葉にあたしの顔はだらしなく綻ぶ。

「そういうことはちゃんと目を見て言ってほしいなぁ」
「ちょ、ちょっと今は照れくさいんだもん。いつもは言ってるじゃん」
「今、今。オイラは今まさに聞きたいんだよ?藤本くん」

ベッドの上で抱き合いながら可愛い恋人にキスをする。
鼻先を擦りあわせて笑いながらまたキスをした。
しつこいほどのキスの応酬。
ムキになる二人。
楽しくて仕方ない。

「えーと、コホン。じゃあ言います」
「やった!待ってました!!」
「うっさい。大人しく聞け」
「ふぇーい」
「愛してるよ、よっちゃん」

聞きたかった言葉を耳にしてあたしはやっぱりだらしないニヤケ顔。
そこにすかさず美貴が突っ込む。
久しぶりのこの空気がこの上なく幸せだった。
美貴に振られたかもと昨日まで思い込んでいた自分に教えてあげたい。
あたしはこんなにも幸せなんだぞ。
グジグジメソメソ落ち込んでないでかっこよく美貴を迎えろよって。

「そういえば美貴にメールを送ったんだけど、もちろん読んでないよね」
「うん。日本を発つときバタバタしてたから読んでない」
「そっか」
「なんて書いたの?」
「いや…それは、えっと…」
「さっさと言え」
「いふぁいいふぁい。美貴ひゃんまじでいふぁいから」

ほっぺをぐいーんと引っ張る美貴はやっぱり楽しそうで生き生きとしていた。

「いいもん。どうせ帰ったら読めるから」
「ちょっと恥ずかしいから、できれば読まずに消去してほしいんだよなー」
「そんなことするわけないじゃん」
「だよなー。読むよなー。うーん、まあいっか。読んでいいよ」
「なんか楽しみかもー。帰ったらまず始めにメール読もうっと」
「あのさ、今さらだけど来てくれてありがとう」
「……仕事忙しかったけどなんとか頑張って休みもらったの。どうしても会いたかったから」

言いながら真っ赤になる美貴。
あたしのニヤケ顔は言うまでもない。
可愛い美貴を見ていたら、急にいいことを思いついた。

「そうだ!あのさ、温泉行かない?」
「温泉?」
「そう。日本に帰ったら温泉行こーぜ」
「いいね〜。温泉行きたい」

ちょっと早咲きの桜なんか見ながら美貴と二人
ゆっくり温泉につかってビール飲んで美味しいもの食って。
色っぽい浴衣姿の美貴に欲情なんてしちゃって。
そんな光景が目に浮かんできた。
想像していたことが、もうすぐ実現する。
遠い未来の実現不可能だと思っていたあたしの夢。

美貴とあたしで温泉に行くんだ。
温泉だけじゃない、いろんなところに行くんだ。
そしてずっとずっと一緒にいるんだ。
いつまでも愛してるよ、美貴。

ヘタレなあたしだけど、これからもどうぞよろしく。







◇◇◇◇◇


  藤本美貴 様


 なにから話していいのか、言いたいことがありすぎてちょっと困ってます。
 もしかして、オイラは振られちゃったのかな?
 そんなことナイって信じてるけどやっぱり不安です。
 って不安に思ってるのは美貴も一緒だよな。
 元はといえば不安の元凶はあたしにあるんだし。

 ごめんね。本当にごめん。

 美貴を愛してるのにどうしてかな。どうしてうまく愛せないんだろう。
 簡単なことにどうして気づかなかったんだろう。
 あたしは美貴を愛してて、美貴はあたしを愛してくれていて。
 それだけのことなのに、こんな遠くロンドンまで来て
 ようやくその答えにたどり着いたあたしはやっぱりバカだよ。
 バカなあたしが好きだって美貴は言ってくれるけど
 あたしはあんまり…というか全然好きじゃないよ。バカはもうこりごりだ。

 昔のあたしはひとつのことに囚われすぎてまわりも自分も、相手さえも見えてなかった。
 見ていなかった。
 今のあたしとそう大差ないのが悲しいところだ。
 でも美貴と会ってあたしは変わった気がする。
 まさに運命だったよ。

 美貴を初めて見たときのことは今でもよく覚えてる。
 たぶんあのときからあたしはどこかで美貴に心奪われることを予感していたのかもしれない。
 なんて言ったらまた調子がいいって言われるかな。

 でもこんなにも愛することができる人と巡り合えるなんて本当に思ってもみなかった。
 いろんなことがあったけど、ツライことや哀しいこと、ホントにいろいろあったけど
 それもすべて美貴に出会うために必要なことだったんだって考えれば
 過去の自分も報われるよな。なんかそんな気がするよ。

 あの頃は大人になんてなりたくないっていつも思ってた。
 バカだよなー。
 大人とか子供とかそんなことにこだわること自体がバカだよな。
 ましてや死のうとしていた自分はあまりにも大バカだ。

 今は美貴のためだったらあたしはなににだってなれる。
 なんでもできるよ。
 美貴に会うためにあたしはあのとき死ななかったんだ。
 美貴に会うためにあたしは生まれてきたんだ。
 素直にそう思えるから。
 生まれてきて起こったすべてのことが
 美貴を愛するために起こるべくして起こったことなんだって思えるんだ。

 そう、あたしは美貴を愛するために生まれてきたんだよ。

 約束したよね?
 美貴の笑顔のためにって。
 呆れられても怒られても、あたしは美貴を愛してるよ。

 だからあたしは帰る。美貴のもとへ。



 ロンドンより愛をこめて


  吉澤ひとみ










<彼女は友達 ロンドン編 了>


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