ループ






だから私たちはどこにも踏み出せなくなる。





「つまんねーな。なんかやってないのかよ」
「そんなこと言って。普段テレビなんて見ないくせに」
「あー来週天気悪いんだ」
「そうやっていつも逃げるのよね」
「………」
「都合が悪くなると黙るし」
「べつに」
「ああ、またそれ」
「それってなんだよ」
「べつに」
「………」

彼女の三大ワードのひとつ『べつに』を返したらまたダンマリ。
こういうときの彼女は本当に子供のよう。

「ねぇ」
「………」
「ねぇってば」
「ぁんだよっ」
「ちゃんと話し合わなきゃなにも解決しないよ」
「解決しなきゃいけない問題なんてある?」
「わかってるくせに」
「わからないよ。あたしにはわからない。梨華ちゃんの口から聞かなきゃなにもわからないよ」
「そうやってなにもかも私に押しつけて、私の口から言わせて、私から離れていくんでしょう」

たぶん次は誘ってくる。話を有耶無耶にして。
大切なことを置き去りにしてなかったことにする気。
崩れることのないいつものパターン。
虚しい朝はもう迎えたくないのに。

「梨華ちゃん」
「やめて」
「いいから」
「やだってば。そんな気分じゃないっ」

腕を強く引っ張られ、あっという間に彼女の膝の上。
腰をホールドされ身動きがとれない。
首の下に顔を埋められ少し感じた。

「あたしが梨華ちゃんから離れるわけないじゃん。梨華ちゃんが望むならそれは仕方ないけど」
「体だけなんでしょ」

精一杯突き放す。バツが悪そうに俯く彼女。
ここで流されたらまた同じことの繰り返し。
堂々巡りはもうたくさん。
こんなことは早く終わらせなきゃ。

「ちゃんと話し合って。目を逸らさないでよ。いつまでもこんなことしてても意味がない」

声が掠れて語尾が小さくなったのは、背中にまわされた手がブラのホックをなぞったから。
次にくる快感が容易に想像できて私は彼女の肩に置いた手に力を込めた。

「離れないよ」

弱々しい彼女の声。
ああ、この人は本当になんて嘘が下手なんだろう。
嘘でもいいから心で、体で否定してほしい。目を見て否定してほしい。

「バカ」

Tシャツを脱がされブラが露わになる。
片手でホックを外され冷たい手が中に滑り込んできた。
私の突起を口に含み、舌で転がす彼女。

「早く下も脱いで」

耳元で囁かれ腰を浮かせてしまう。
もう抵抗する気は微塵もない。
また堂々巡り。
虚しい朝の予感とともに私は快楽に身を沈めた。



「んっ、あ、はんっ」
「もっと梨華の声聴きたいな」
「ねぇ、ねぇよっすぃー」
「なに」
「ひゃんっ。他に、他に好きな人がいたら、そっちにいってもいいんだよ?」
「いないよそんな人」

彼女の指がいっそう早さを増して、そこで私の意識は途切れた。





また虚しい朝がきた。
横で眠る彼女の顔を見る。
私の元から離れないと言った彼女。
私が望まない限り離れないと言った彼女。
私ができないことを知っててそんな言い方をした彼女。
ズルイ人。わかってるくせに。

彼女の心に違う人が住んでいても私は離れられない。
こんなこと終わらせなきゃと思っていても離れられない。
堂々巡りを繰り返すだけだとわかっていても。
だから言ってほしかった。体だけだと、私の体で傷を癒してるだけなんだと。
目を見て言ってほしかった。
そう彼女の口から聞きたかった。
突き放してほしかった。



それができない私たちは同じ輪の中をグルグル回るだけ。





だから私たちはどこにも踏み出せなくなる。










<了>


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