爪先に咲く花






「ね、いいでしょ?」


「だぁめだって」


「えぇー」





よっすぃーの手は、白くて細くて。
綺麗。
思わず見とれちゃう。


「ねえってばぁ」

「ダメ。ぜってーダメ」


特に、その長い指を見てるとうっとりしちゃう。
私も、こんな風に生まれたかった。
素直にそう思う。


「ね、ちょっとだけ。すぐに落としていいから」

「ヤだって」

「お願い。今日はこっちにしよ?」

「ダメっつってんでしょ。もう。あたしがんなのつけてったらなんて言われるか…」


そう言って、よっすぃーはばっと手を引っ込める。
だから私は慌ててそれを引き止めた。


「ごめんごめん。怒らないで。ちゃんとこっちにするから。ね?」

「…」


持っていた濃いピンクの小瓶を置いて、よっすぃーお気に入りの薄いペパーミントの
小瓶を取る。
それを見て、よっすぃーはふぅ、と息を吐くと手に込めた力を抜き
また私にその手を委ねてくれた。




***




よっすぃーの爪にマニキュアを施すのが、最近の私の日課。
自分の爪をいじるのが趣味の私だけど、やっぱり自分で自分の爪にするのは苦手。
だから自分のはもっぱらネイルサロンにお任せ。
私の、ちょっとコンプレックスのある肌色の指先も
ネイルサロンのお姉さんはまるで魔法みたいに美しく彩って
私をうっとりさせてしまう。
爪先に咲く色とりどりの花たちは、それだけで私を楽しい気分にさせる。
だけど。
そのうち、やってもらうだけじゃ物足りなくなってきて。
よっすぃーの爪を彩ることに今の私は夢中なんだけど。


「ね、よっすぃー。ちょこっとネイルしない?」

「はぁー?」

「あのね、先の方に、このお花のネイルシール貼るの」

「…」


よっすぃーの無言の抗議に、今度は私がひとつため息をついて
二度塗りしたペパーミントにトップコートを掛ける。




つまんない。




思うとおりにネイルさせてくれないのもそうなんだけど。
でも、そんなのはよっすぃーの性格からとっくに解かってることで。
でも、どうしてもしたいのは。
やっぱり…。


「ちぇ。お揃いにしたかったのに」


よっすぃーは、いじわるだ。
乙女心ってのを解かってくれない。
ペアリングもペアウォッチもペアルックも…って、それはさすがに私もどーかと思うけど。
とにかく、してくれない。


「あんね。あたしが爪先に花なんて付けて仕事行ったらみんなに何言われるか。
 しかも石川とお揃いの柄なんて」

「そんな、柄までみんな気づかないよ」

「気づかないならしなくていいじゃん」

「気づかないんだからしたっていいじゃん」


よっすぃーは、解かってない。
私はもっと、よっすぃーと繋がってたいのに。
俯いた視界によっすぃーの長い足が入る。
…。


「じゃあ、足は?ペディキュア!!」


ぱっと顔を上げて、声高に口にする言葉。
だって、我ながら名案って思う。
今の季節、衣装の靴はほとんどがブーツ。
たまにパンプスもあるけど、サンダルなんてまずない。


「ね、足の爪ならいいでしょ?みんなに見えないもん!!」


よっすぃーは最初、えぇー?って怪訝そーに眉をひそめて。
だけど、不承不承にしょうがねーなーって許可を出した。


「やった」


手をひとつ叩いて喜びを表現すると、よっすぃーも満更じゃなさそーにへらへらっと笑って。
だから私は、よっすぃーの足に手を伸ばす。


「ちょ、ちょっと待てって。自分で脱ぐからっ。ひっぱんな、伸びるしっ」


濃紺の厚手の靴下を脱がせてあげよーとしたら、よっすぃーは途端に赤くなって抗議した。
折角脱がせてあげよーと思ったのに。


「ったく、びっくりすんじゃん…」


ぶつぶつ言いながら、よっすぃーはだけど大人しく靴下を脱いだ。




***




「どれにしよっかな〜」


私はうきうきと色を選ぶ。
だってさ、ペディキュアなんだし、ちょっとくらい派手な色でもいいよね?
やっぱここはこう、メタリックなカンジのピンクとかどーかな。
それとも赤に近いよーな濃いピンク?
私はお気に入りの小瓶を次々手に取りながら悩む。
ちらっと見たよっすぃーの顔が手元の瓶を見て引きつったのは見なかったことにする。うん。


「コレかなっ」


選んだのは、赤。
それも濃い、血のよーな、深い深い赤。


「ねっ?」


う……ん…。
よっすぃーは曖昧に返事をする。
否定しようか許可しようか考えてるカンジ。
きっとピンクよりはイイけど赤ってどーだろ…って考えてる真っ最中。
だから私はすかさずベースを塗ると、乾く間も惜しんでよっちゃんの爪に赤を塗り込める。


「キレー…」


片足を塗り終わって。
一息ついて思わず口にする。
だって、すっごく綺麗なんだもん。
よっすぃーの白い足に真っ赤な真っ赤な爪が並ぶ。
それは例えて言うなら、爪先に咲いた花のように。
艶やかによっすぃーの足に彩りを与えている。


「ん」


うっとりと見入っていると、よっすぃーが塗ってない方の足を差し出して来た。
なによう。
今、ちょっと感動してたトコなのに。


「人の爪見てうっとりすんなよ。キショいなぁ」


なによなによ。
キショいとか言わないの、よっすぃーはぁ。
抗議の意味を込めて見上げたよっちゃんの顔は………
いつもみたいにかっこ可愛いかったから、仕方ない。許してあげよう。


「はいはい、よっすぃーはいっつもせっかちさんなんだからぁ」

「あんだよ、いっつもって」

「えぇー」

「なに笑ってんだよ、キショキショ」


もう一方の足もベースを塗って、赤のペディキュアを施す。
うん、やっぱり綺麗。
両方の足を並べさせて再確認。
10本並んだ綺麗な指に10個並んだ赤い花びらのような爪。
綺麗……。


「きゃっ」


またうっとりと見入っていたら、急にふくらはぎをがしっと掴まれて
強引にぴっぱられた。


「ちょぉっ…」


よっすぃーはニヤっと笑って私の抗議を聞き流す。
力任せに足を引っ張られて、私の身体は自分の体重を支えきれずにあえなく
床に崩れ落ち。
よっすぃーの掴む右足だけが高く上げられてる状態。
だけど、それって…。


「ふふん、いい眺めだね〜」


よっすぃーの声に、私は慌ててスカートを抑えてよっすぃーを睨む。


「もー、バカ。オヤジぃ!!」

「ん?そゆコト言う?」


そう言うと体勢を立て直せないままの私の足をがばっと開き。


「きゃー。バカぁーー」


ジタバタする私の足を撫で回す。


「バカとかゆーヤツにはお仕置きしないとなぁ」


なにがお仕置きよぉ、訳わかんない。
より一層バタバタもがく私の足を物ともせずに。
よっちゃんは私の太股に唇を落とした。


「んんっ…」


唇が触れる感触にどきどきして。歯の当たる感触にはっとする。


「ちょ、よっ……」


強く吸われて。
ぞくっとした感覚が全身を走る。頭の先から、爪先まで。
もぉ、跡付けたでしょ、絶対。
ダメだって言ってるのに。
どこで見られるかわかんないんだから。
だけど、それは、そのよっすぃーの跡はやっぱりちょっとだけ嬉しくて。
ちゃんと抗議出来ない自分もいて。
恥かしい。


「はぁ…ん………よっ…すぃー……」


目を閉じて、続きを待ってる自分が………。


「って、よっすぃー?」


待っていても、全然『続き』は始まらなくて。
よっちゃんの手の感触が私のかかとの辺りにあるだけで。
待ちきれずに目を開けるとそこには真剣な顔で私の爪に赤を塗りたくるよっすぃーの姿。


「なに?」


なんて爪から顔も上げずに聞き返すから、なんにも言えなくなる。
もう。
よっすぃーはいつもマイペース。
私はそれに振り回されてばっかり。
だけどそれが愛しくて。
ついつい振り回されてしまう。
ベースも塗らずに赤いの塗り始めちゃってるけど、仕方ないから
何も言わずに許してあげる。
いつもいつもそんなカンジ。


「あぁー…うー…案外ムズカシイよねぇ」


そう言いながら、私の爪を真剣に綺麗にしようとするあなたを見てたら
なんにも言えないじゃない?


「ほい、出来たっ」


出来上がったそれは、少しだけコースアウトして指にはみ出しちゃってたり
するけど、概ね良好。
うん。
悪くない。


「……なんか、いいね」


しばらく私の足の爪を見ていて。
ぼそっと、よっすぃーが言葉を落とす。


「悪く、ない、かも」


そう言って、私の足を愛しそうに撫でる。


「でしょ?」


私は、よいしょって身体を起こすとよっすぃーに抱きついて。
よっすぃーの両足を伸ばさせて、自分の両足と並べる。
20枚の真っ赤な花びらが、揺れている。


「なんか、お花みたいじゃない?」

「ん、なんか、爪先に花が咲いてるみたいだね」


愛しい人が、自分と全くおんなじコトをおんなじ時に感じてくれている。
それがすごく嬉しくて。
どきどきして。
もう一度よっすぃーに抱きついたら。
強引に剥がされて、身体を床に横たえられた。


「よっすぃー?」


また掴まれた足に、キスをされて。
咲いた花を舐められて。
私の抗議は宙に浮いてしまう。
よっすぃーは、私の赤い花をお気に入りのご様子で。
一心不乱にキスを落としてる。
だけど。


「よっすぃー」


もう。


「よっすぃー!」


ねえってば。


「よっすぃーってば!!」


私の言葉に、足に唇を寄せたままよっすぃーは視線だけを私に向けて。


「……足ばっかじゃ、イヤ」


その顔が色っぽくて、ちょっとドキっとして視線を逸らせた私に
ふっと笑うよっすぃーの息遣いが届く。


「せっかちさんはどっちかなぁ」


もう一度上げた視線の先には、さっきとは違ってニヤニヤと笑う
よっすぃーの顔。
もー!!


「いやっ。もういいもん。放してバカ、エッチぃ」


ジタバタしても。
逃げられないのはきっと私の運命。
私の身体の上に圧し掛かってきたよっすぃーの身体に潰されて。
私は身動き出来ない。


「エッチはどっちだよ〜。さっきエッチぃ声で『はぁん』言ってた癖に〜」

「もー、バカ、キライキライ。あっち行ってよ、エロオヤジぃ」

「そーゆー可愛くないコト言う子にはよしこがキツーイお仕置きをしなきゃいけませんねぇ」


どんなコトが起きて、どんな目に合っても。
私はよっすぃーから逃れるコトなんて出来ない。
これがきっと、私の運命。


「あんっ………バカぁ」

「ふふっ石川はエロいなぁ」

「………バカ」


よっすぃーに何をされても、どんな目に合わされても。
私はよっすぃーから逃れるコトなんて出来ない。
それがきっと、私の運命。
だから。
私は今日もよっすぃーに身を任す。
視界の端で、よっすぃーの赤い爪先が揺れる。
トップコートは、よっすぃーの気が済んでからにしよう。
そうしよう。



***




爪先に咲く、赤い花。
それは、よっすぃーと私だけの、甘い記憶。











こんにちは。飼育の片隅にこそっと生息している桜折といいます。いしよし小説振興のため『ロテさんがなにかいしよし書いてくれるなら私も書いて贈りますよ〜』などと条件つけて書いたのがコレです(w 正直、こんな拙いモノとブツブツ交換なんて偉そうですみません、ロテさん…ってカンジです。あ、でもお返しは期待してるんでよろ〜…なんて。こんなんで良ければブツブツ交換随時募集中なんで、そこの管理人さん、作家さん、ご一報を…とかいしよし小説振興委員会ぶってみる桜折でした。(2005/5/2)

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